『The One 南園人文客棧』を訪ねる~台湾建築散策


台湾北西部に位置する新竹県。ここ新埔は客家系住民が多く暮すことで知られる土地。高燥とした風土ということもあり、果実栽培が盛んだ。中でも椪柑(ポンカン)や桶柑(タンカン)、そして、柿の栽培でも知られ、干し柿は新埔の名産品として知られている。



今回はここにある高級招待所『The One 南園人文客棧』を訪ねた。鬱蒼とした緑の中に中国伝統様式の建築群が並ぶ。テレビCMや雑誌などにも盛んに取り上げられており、知る人ぞ知る存在となっている。日本方面については、2024年には雑誌CREAの台湾特集で表紙を飾って話題となった。



『The One 南園人文客棧』は通称『南園』(以下、南園)は27ヘクタールという広大な敷地を誇る。広い庭園を擁し、そこに中国江南式のデザインでまとめられた家屋と、中国福建地方南部のいわゆる「閩南式」の伝統家屋が再現されている。中国大陸の伝統建築のスタイルを踏襲しつつも、バロック風の装飾が加わっているのも特色とされる。全体としては中洋折衷様式となっており、独自の建築景観を生み出している。



この空間は1985年、台湾の大手紙「聯合報」の創設者・王惕吾氏が手がけたものである。本来は隠居用に建設した邸宅だったが、社の保養所として利用された時期もあったという。内外の賓客を招く際に用いたところ、好評を博したということで、2007年からはライフスタイルブランド<The One>が運営を手掛けることとなり、翌年からホテルとして一般開放されたという経緯がある。

https://nanyuan.theonestyle.com



建物の設計を手がけたのは「台湾の建築の父」とも称される漢寶德。台湾の建物の近代化を進め、かつ伝統建築の調査・研究に尽力した人物である。中国伝統の建築や庭園を現代建築の手法で再現した空間は、それだけでも一見の価値がある。同時に、台湾特有の深い色合いの緑との調和が意識されており、独自の趣を感じさせている。また、敷地内には日本の建築家・隈研吾による景観建築もあり、記念撮影を楽しむゲストが絶えない。



CEO(執行長)である劉邦初氏にも話をうかがう機会を得た。<The One>は台湾の風土と文化を後世に伝えていく重要性を感じて創業。各地域の魅力を十分に掘り下げ、世界に向けて発信していく取り組みを続けているという。今でこそ、台湾各地で地域創生事業が盛んに行なわれているが、ここはそういった動きの先駆けとも言える存在だ。試行錯誤を繰り返しつつ、現在の地位を築いていったのだという。



宿泊のみならず、文化体験コースも実施しており、こちらも好評だ。今年は創業20周年という節目にあたり、「異數悦遊(非日常的な空間で心から楽しく遊ぶ)」というプロジェクトを始動させている。具体的には「地酒」、「中華伝統菓子」、「コーヒー」、「器」、そして「工芸品」という主題が設定されており、それぞれに体験コースが用意されている。以下、そのいくつかを紹介してみたい。各コースにそれぞれプロフェッショナルな講師が付き、優雅な空間の中で「学びの時間」を体験できる。



1)台湾の地酒を体験

地酒で台湾の豊かさに触れるコース。講師は台北市内で『The Herbal 香草窗』というバーを経営するバーテンダーの侯力元氏。世界的な評価を受けている<東太陽製酒>のクラフトジンをテイスティング。台東の醸造所で作られたもので、台湾原住民族が好むスパイス「馬告(マーカオ)」や山椒のような香りのする「刺蔥」、東京食品展で好評だったというパクチー(香菜)を加えたものなど、風味にこだわった味わい。いずれもすっきりとした飲み心地が自慢だ。さらに、台東産の桑の実、苗栗産の梨、台中産の桃を用いたフルーツ酒や、台東県鹿野産の名産・紅烏龍茶を浸け込んだ梅酒「鹿野」などもある。




2)台湾産の芋焼酎を味わう

台湾で研究開発された芋焼酎も人気を集めている。台湾産の素材にこだわる「恆器製酒」は、数々のオリジナルリキュールで知られる酒造メーカー。オーナーの羅已能氏は実直な人柄で慕われる人物。ここでは劉氏自身によるテイスティング講座が開かれている。羅氏は並々ならぬ情熱を抱く醸造師で、取材時には椪柑(ポンカン)、桶柑(タンカン)、茂谷柑という3種類の柑橘類を用いたリキュールを味わった。甘酸っぱさの中にもほのかな苦みがあり、格別な味わい。なお、南園では同社の産品の購入も可能となっている。




3)陶芸の世界に触れる

「器」を楽しむコースでは<森雨制陶>の創業者である劉森雨氏が講師を務める。暮らしの中での「器」の楽しみ方を分かりやすくレクチャー。劉氏は元々は出版社に勤めており、陶芸は退職後に趣味で始めたものだという。独自に研究と開発をすすめ、現在は台北郊外の淡水に工房を構え、作品作りに勤しんでいる。なお、<The One>の食器には劉氏さんの作品も使用されている。



そのほか、。台中市にある伝統中華菓子店「喜豐香1985」が手がける伝統菓子と新竹特産の東方美人茶を味わう講座や、台湾の中部・雲林県莿桐郷にある農村でコーヒー文化普及の活動を続ける「芒果咖啡」の店主・廖思為氏による「コーヒーの旅」、竹編み工芸で知られる「本質創作室」のオーナー・李雅靖氏による「工芸品の手作り体験」など、多彩な企画と講座が用意されている。



台北からは約60キロの距離。高速道路を利用すれば、約一時間でアクセス可能だ。もしくは、台湾高速鉄路の新竹駅からも約13キロ、タクシーを利用して30分程度となっている。また、宿泊者用のシャトルバスも出ている。宿泊・予約については公式ウェブサイトを参照のこと。客室には日本語による表示もある。

https://nanyuan.theonestyle.com






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